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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)5号 判決

控訴人(被告) 田島守保承継人 田島暁 外二名

訴訟代理人 中村護 外五名

被控訴人(原告) 松岡きく 外一二名

訴訟代理人 泉博 外五名

主文

原判決中控訴人ら(控訴人田島曉にあつては、原審被告田島守保)敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟の総費用は被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨の判決(主文第二項については、第一次的に「被控訴人らの訴えを却下する。」との判決)

二  右に対する答弁

控訴棄却の判決(原審被告田島守保の死亡に伴う控訴人田島の相続及び差戻後の当審における請求の減縮により、原判決主文第一項は、「控訴人らは連帯して東京都国立市に対し金一二五〇万円を支払え。」との趣旨に減縮変更されている。)

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人らは東京都国立市(本件がその市制施行前の事件であることにより、以下「国立町」という。)の住民であり、控訴人田島の先代亡守保は昭和三〇年から昭和四二年まで国立町長、控訴人今井は昭和三四年から昭和四二年まで同町助役、控訴人佐伯は昭和三四年以前から昭和四二年まで同町収入役の地位にあつた。

2  亡守保は、国立町長として、同町の「議会の議決を経べき財産、営造物及び契約の締結に関する条例」(以下「条例」という。)第五条に定める権限に基づき、昭和三八年三月一一日大村建材株式会社(後に商号を大村興業株式会社と変更。以下「大村建材」という。)との間で、原判決別紙不動産目録((20)の「三二〇六番」を「三二〇四番の一」に改めた上、同目録を引用する。)記載の土地合計四四一七坪(実測約五〇〇〇坪。以下「A地」という。)を路面より平均一三センチメートル高くなるように埋め立てた上、坪当たり一万一五〇〇円で国立町が買い受ける旨契約した。

次いで、亡守保は、大村建材との間で同年一〇月ころ、右売買価格を坪当たり一万四四五五円に増額するとともに、他の土地約三〇〇〇坪(以下「B地」という。)をA地の場合と同じ条件で買い受ける旨合意し、町がこのような内容でA地及びB地(以下「本件土地」という。)を買収する旨の契約(以下「本件買収契約」という。)を結んだ。

3  亡守保は、昭和三八年一〇月一日町議会に、本件買収契約に関する議案第八六号ないし第八八号を提出し、町議会は即日これを全部議決した。

4  国立町は、大村建材に対する支払に充てるため、原判決別表(これを引用する。)(一)欄記載のように、昭和三八年三月一一日から同年一二月二七日までの間に、多摩中央信用金庫(以下「中央信金」という。)から総額一億二三八四万五〇〇〇円を利息日歩二銭一厘ないし二銭三厘の約定で借り入れた(以下「本件借入れ」という。)上、原判決別表(二)欄記載のように、その都度、この借入金をもつて大村建材に対し前記代金の支払をした(以下単に「大村建材への支払」という。)。なお、本件土地の一部に国有地が含まれていることが後日判明したので、昭和三九年一〇月その代金相当分一五六万一一四〇円が大村建材から国立町に返還された。

5  本件借入れに関する国立町と中央信金との昭和三八年一〇月一日から昭和四二年三月一三日までの間の取引及び返済の状況は本判決別表(一)記載のとおりであり、その間町は中央信金に対して利息金として合計三二六三万九七一九円(以下「本件利息金」という。)を支払つた。

6  右の大村建材への支払は次の理由により違法である。

すなわち、前記国立町議会の議決した議案第八八号によれば、大村建材への代金の支払時期は昭和三九年度中に行うものとされていたものであり、昭和三八年度予算には計上されていなかつた。また、本件買収契約によれば、代金は本件土地につき農地法第五条の転用許可と町への所有権移転登記がされた後に支払うと定められていたところ、右の大村建材への支払当時これらの手続は全然履践されていなかつた。

なお、国立町議会は、昭和四一年三月三〇日に、大村建材への支払を昭和四一年度一般会計補正予算として議決したが、これによつて既にされた違法な支払がさかのぼつて適法となるものではない。

7  大村建材に対して右のように支払うべきでない時期に代金を支払つたことにより、国立町は少なくとも次の(一)、(二)のいずれかの損害を受けたと算定し得る。

(一) 支払合計額一億二三八四万五〇〇〇円に対するその最後の支払日の翌日である昭和三八年一二月二八日から前記昭和四一年度補正予算成立の前日である昭和四一年三月二九日まで民事法定利率年五分の割合による利息相当額一三九四万五二八六円

(二) 右予算が成立した昭和四一年三月三〇日にはじめて右一億二三八四万五〇〇〇円を支払うことができ、かつそれで足りたものと考えて、それより前の昭和三八年一二月二七日に前払するのであれば、同期間、同利率により控除すべきであつた中間利息相当額一二五三万三九三二円

8  本件借入れ及び本件利息金の支払は、次の理由により違法である。

昭和三八年法律第九九号による改正前の地方自治法によれば、地方公共団体が行う借入れは、地方債(第二二六条)と一時借入金(第二二七条)とに限られているところ、本件借入れがこのいずれにも該当しないことは明白である。

なお、前記議案第八八号は、同法第九六条第一項第八号に定める予算外義務負担のための議案であり、買収代金の支払を昭和三九年度中に行うことを承認議決したからといつて、本件借入れが適法視されるいわれはない。右議案の議決によつて、その支払資金の手当として、昭和三九年度予算において歳入から支出するように計上するか、あるいは新たに起債の手続を執ることが必要となるにすぎない。

本件借入れが違法である以上、その消費貸借契約は当然に無効であり、国立町は中央信金に対して約定利息を支払う必要がなく、借入金を不当利得として返還するほか、せいぜいその借入日から返還まで年五分の割合の遅延損害金を支払えば足りるのである。この損害金を計算すると、本判決別表(二)のとおりであつて、その合計は一九九八万九四八三円にとどまるので、本件利息金の支払により町はその差額一二六五万〇二三六円の損害を受けたことになる。

9  ちなみに、本件買収契約上の代金決済のため地方債を発行することはそもそも不可能であつた。

地方財政法第五条は、地方債をもつてその財源とすることができる場合も限定しており、本件においては右代金が同条第一項第五号(当時)の「建設事業費」に該当するかどうかを論ずれば足りるところ、同号の定める「公共施設又は公用施設の建設」のためその用地を買収する費用が右建設事業費に含まれるとしても、それは具体的な公共施設等の建設の場合に限られる。しかるに、田島町長らが本件土地を取得することにした真の目的・動機は、本件土地の値上がりを予測した上での投機であり、あるいはその使用目的について何ら具体的計画を有しない純然たる先行投資目的であつたことは、当時の町長、助役及び収入役はもちろん、町議会議員その他の関係者間では誰一人疑う者がいなかつたのである。このことは、当時の国立町議会全員協議会議事録や本件買収契約に係る前記三議案を審議した際の町議会議事録によつても明白である。

後記控訴人らの主張によれば、右田島町長は地方財政の確立について尽力を続けていたというのであるから、仮にそれが可能であれば、当然利子の安い地方債の起債を申請したはずであり、すべきであつた。しかし、右の事情により右起債を申請しても都知事ないし監督官庁の許可は期待できなかつたためしなかつたというにとどまる。

このように地方債の起債すらできないような場合には、地方自治体は絶対に違法な借入れをしてはならないのであり、この借入れについて支払つた利息金は全額が自治体の損害となると考えるべきである。

10  亡守保は町長として、控訴人今井は町長を補佐し収入役を監督すべき助役として、控訴人佐伯は収入役として、各々大村建材への支払及び本件利息金の支払が違法な公金の支出であることをその職責上当然に知り又は気付くべきであつたにもかかわらず、故意又は過失により、亡守保にあつてはその支出を命令し、控訴人佐伯にあつては違法なこの命令に応じて支出を実行し、また、控訴人今井にあつては前記一連の事柄について終始亡守保や控訴人佐伯と協議しておりながらこれをやめさせるべき助役としての職責を怠り、右三名の共同不法行為として国立町に対して前記のような損害を被らせたので、連帯して国立町(現国立市)に対しこれを賠償すべき義務を負つたものである。

11  そこで被控訴人らは、昭和三九年九月三〇日国立町監査委員に対し、同町の受けた前記のような損害についてこれを補填するための必要な措置を講ずるよう請求したが、同年一一月二八日同委員から右請求は理由がない旨の通知を受けた。

12  第一審被告守保は昭和四八年九月一三日死亡し、その子である控訴人田島が私法上のその権利義務一切を相続し承継した。

13  以上により、国立市の住民である被控訴人らは、国立市に代位して控訴人らが同市に対して、前記7の大村建材への支払によつて生じた損害金の内金一二五〇万円の賠償請求(以下「第一請求」という。)と、8の本件利息金の支払によつて生じた損害金の内金一二五〇万円の賠償請求(以下「第二請求」という。)をするものであるが、第一請求と第二請求とは、いずれか一方が認容されることを条件として他方は撤回する趣旨で選択的に併合するものである。

二  請求原因に対する控訴人らの認否

1  請求原因1ないし5の事実については、昭和三八年一〇月一日に国立町議会において議案第八六ないし第八八号が議決されるより前の契約関係は、亡守保において町の機関としてではなく個人として、大村建材と本件土地の買収について交渉して契約し、中央信金から借入れをして利息を支払い、大村建材に代金を支払つていたにとどまるものであるから、この点では否認するが、その余はすべて認める。なお、本件買収契約における坪当たり一万四四五五円という単価は、決して高くはない。

2  請求原因6ないし11及び13については、大村建材への支払が国立町の昭和三八年度予算に計上されていなかつたこと、農地法第五条の転用許可及び所有権移転の本登記未了の間に支払つた分もあること、並びに本件借入れが前記改正前の地方自治法の定める地方債及び一時借入金のいずれにも当たらないことは認めるが、その余は否認し争う。  3 請求原因12の承継関係は認める。

三  控訴人らの主張

次に掲げるほか、別紙控訴人ら代理人の昭和六〇年八月二七日付け準備書面(写し)のとおり(同書面一枚目裏九行目「判断は」を「判断に」に改め、四枚目裏初行ないし三行目括孤書きを削る。)である。

1  第一請求について

本件土地買収代金については、昭和三八年一〇月一日議決された前記議案第八八号により、同年度内にこれを支払うための予算外義務負担が認められたのであるから、国立町が同年度の予算に計上しないでその支払をし得ることは当然である。

また、右代金が本件土地につき農地法第五条の転用許可及び所有権移転登記未了の間に支払われたという被控訴人らの主張についてであるが、亡守保は事前に関係官庁と折衝して農地転用につき一応の了解を得ていたのみならず、大村建材からは移転登記及び農地転用に必要な書類の交付を受けるとともに、次のように土地の引渡しも受けていたのであるから、右代金を同社に支払うべきことは取引上の信義則に属する。そもそも大村建材との間では、同社が一定部分の埋立工事を完了すれば、その部分につき逐次国立町に対し土地引渡し並びに登記に必要な書類及び地目農地の分についての農地転用に必要な書類の交付をし、町ではこれに見合う一部代金につき中央信金から融資を受けることとし、これらの条件が整つた時に右一部代金を支払うことと約定されていたものである。

そして本件土地の引渡しについては、大村建材との右約定により、本件土地の造成工事が一部完了するごとに、これに相当する一部代金を支払つて一部土地の引渡しを受けてきたものであつて、右工事は昭和三八年一〇月ころすべて完了し、遅くとも本件土地の所有権移転登記又は仮登記の手続を経た同月一四日ないし同月二二日ころにはほとんど全部の土地の引渡しを受け、同年一二月二七日の代金支払完了時には、町は、本件土地全部の引渡しを受けていたものである。したがつて、亡守保ないし町は、その都度同等の反対給付を受けつつ、当然の義務として代金の一部支払をしたのであり、その支払時期についてはいがなる違法性もない。加えて、造成工事の完了と土地の引渡しという現実の利益を町が享受している以上、その対価を支払つたからといつて町に経済的損害が発生することはあり得ない。本件土地の時価が当時値上がりし続けていたことを考慮すれば右の理は更に明白であり、右について民事法定利率相当の損害があつたとする被控訴人らの主張は明らかに失当である。

2  第二請求について

本件土地を国立町が買収した目的は町営グランドの建設のためであり、現にそのための図面も作成されており、また、亡守保は町議会等においてもその趣旨を繰り返し説明していた。したがつて、いわゆる土地の先行取得ではない。よつて、当時の地方財政法第五条第一項第五号の要件を満たしており、右につき地方債を起債することは十分に可能であつたものである。そして、地方債を発行した場合には、結局町としては中央信金から縁故債を発行して資金を借り入れるほかなく、このとき町が負担する金利は結局本件利息金と同じであつたはずであるから、この意味でも本件利息金の支払によつて町は何ら損害を受けていないのである。

現実に右町営グランドが建設されなかつた事情は、農地転用の手続等が予定どおりに進捗しなかつたところ、昭和四〇年一〇月本件土地から約二〇〇メートル離れた多摩川の河川敷を建設省から無償で借りられることになつたので急きよ同所を整備して野球場等のグランドに利用することにし、そのため本件土地にグランドを建設する必要がなくなつたものである。そこで、東京都に対し都営住宅のため売却すること等をも検討しつつ、結局昭和四一年三月本件土地を国立町農業協同組合に代金一億八一六四万三一九〇円で売却したものである。

3  損益相殺

本件土地の取得と前記売却により国立町は次のとおり三四四二万〇二七二円の利益を得ているので、損益相殺をすれば、町は何ら損害を被つていないものというべきである。

(一) 取得費用と売却費用 一億五六九〇万〇七一九円

大村建材への支払金一億二三八四万五〇〇〇円と中央信金への本件利息金三二六三万九七一九円と売却のための測量費四一万六〇〇〇円の合計額

(二) 収入金 一億九一四四万四二二七円

請求原因4の末尾記載の大村建材からの返還金一五六万一一四〇円と、この利息相当分として大村建材が昭和三九年一二月二六日町に支払つた一一万一九七九円と、本件土地中に国有の用水路、土揚部分一六五〇平方メートルが含まれていたため昭和四二年五月三一日ころ一〇〇万円、昭和四三年三月三一日七一二万七九一八円の戻入を受けた小計九八〇万一〇三七円と、前記国立町農業協同組合から支払を受けた売却代金一億八一六四万三一九〇円の合計額

(三) 右(二)と(一)の差額 三四四二万〇二七二円(約一二万円少なめの計算違いがあるが、主張のまま)

四  控訴人らの主張に対する被控訴人らの認否及び反論

1  控訴人らの右三1の主張については、本件土地の引渡時期と代金支払時期に関する事実は認めるが、その余は否認し争う。

2  控訴人らの右三2の主張は否認し争う。地方債に関しては、仮に起債が可能とすれば、縁故債でも年利七・六六パーセントの利息で済んだはずであり、二〇一万九七六一円の利息金を余分に支出して国立町に同額の損害を被らしめたことになる。

3  控訴人らの右三3の損益相殺の主張は争う。

右主張に係る国立町の利益とは、本件土地が後に高価に売却されたことによる売却差益がそのほとんどであるところ、これは、事態の成行きからかかる利益が町に生じたまでのことであつて、本件の賠償原因とは別個無関係な社会的事実である。町が本件土地を取得した目的は極めてあいまいであつて、控訴人らの主張する町営グランド建設のためでないことはもちろんであるが、他方、具体的に転売を予定し値上がりを予測して買収したものでないこともまた明らかであり(地方自治体が値上がりをまつて転売するため土地を取得するなどあり得ない。)、本件土地買収の件で町民や町議会から非難されたので町長亡守保においてやむを得ず他に売却したところ、高額の売却差益を生じたというにすぎず、賠償原因との間には相当因果関係がない。

差戻前の控訴審判決は、被控訴人らの右主張を採用して控訴人らの損益相殺の主張をそれ自体失当とし、その上で国立町の被つた損害の額を算定したものであるが、その上告審は右損害額をどのように算定すべきかという点で右控訴審判決を破棄したものであるから、上告審もまた、判決書の上では損益相殺の点につき判断を示していないけれども、その内在的論理としては、控訴人らの損益相殺の主張を失当とした右控訴審の判決を是認しているものと解すべきである。

なお、本件土地の転売代金等の詳細は知らないが、本件土地を取得するに際しては、控訴人らが主張する以上に諸々の経費を要し、各種手続費用のほか、町職員が本件の処理のため携わつた財政的支出を考えると、控訴人ら主張のごとき利益を生じたか否か疑問である。

4  控訴人らの別紙準備書面における法律的主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  争いのない事実

請求原因1の被控訴人ら及び控訴人ら(控訴人田島にあつては、先代亡守保)の地位に関する事実並びに同12の控訴人田島の相続による承継に関する事実は、当事者間に争いがない。

請求原因2ないし5の事実もほとんど争いがなく、ほかにも争いのない事実があるので、これを要約するに、

1  昭和三八年三月一一日、国立町長亡田島守保は、大村建材との間で、A地につき路面より平均一三センチメートル高くするよう同社において埋め立てた上で町がこれを買い受ける旨契約し(守保個人としての契約か・町としての契約かについては、次の二において判断する。)、同年一〇月一日B地をも加えた本件土地の買収につき町議会の議決(議案第八六号ないし第八八号)を経て、そのころ、町と大村建材との間で被控訴人ら主張の内容の本件買収契約が成立した。

2  同じく国立町長守保は、本件土地購入代金の支払に充てるため、中央信金から、昭和三八年三月一一日から同年一二月二七日までの間前後九回にわたり総額一億二三八四万五〇〇〇円を利息日歩二銭一厘ないし二銭三厘の約定で本件借入れ(同年一〇月一日の町議会議決前の分が守保個人としての借入れか・町としての借入れかについても、次の二において判断する。)をし、各借入れの都度そのまま大村建材への支払に充てたのであるが、それは、本件土地の造成工事が一部完了するごとにその引渡しを受け、これに見合う一部代金を引換えに支払つてきたものであり、同年一二月二七日までには大村建材への支払を了し、町は、本件土地全部の引渡しを受けていた。

3  右2の大村建材への支払は国立町の昭和三八年度予算に計上されておらず、また、中央信金からの本件借入れは昭和三八年法律第九九号による改正前の地方自治法の定める地方債及び一時借入金のいずれにも該当しないものであつた。

4  国立町は、中央信金に対し、昭和四二年三月一三日までに本件借入れの返済を了したが、その間合計三二六三万九七一九円の本件利息金を支払つた。

以上の事実もまた、当事者間に争いがない。

二  証拠等による事実認定

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証並びに乙第一ないし第六号証、第一〇、第一一号証、第一四号証の一、第一八ないし第二一号証及び第三七号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない乙第四一号証の一ないし五、当審(差戻前)における控訴本人佐伯の供述により真正に成立したものと認められる乙第三一号証、当審(差戻後)における控訴本人今井の供述により真正に成立したものと認められる乙第三八、第三九号証、同供述により原本が存在し真正に成立したものと認められる乙第四〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一三号証の二、第二五号証及び第三五号証、原審における証人吉田庄七及び大村一郎並びに当審における証人沢井左源太(差戻前)の証言、原審における被控訴人松岡、承継前被告田島守保並びに控訴人今井及び佐伯並びに当審における控訴人佐伯(差戻前)及び今井(差戻後)の本人供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、

1  本件土地は以前は農地であつた(原野、山林という非農地のものも含まれていた。)が、その所有者らが砂利採取業者らに事実上土地を売却したり砂利採取権を付与するなどし、これら業者の砂利の大量採取により、その跡地は水深一〇メートルもの巨大な砂利穴が出来るなど、広大な沼地と化し、付近住民、特に同所で遊ぶ幼児らの危険が憂慮される状態となつていた。このため、国立町としては、所有者や業者らに対し右を早急に原状回復するよう指導していたが、相当の費用を要するため容易に埋戻し等が進まなかつたところから、右の状態を早急に解消して住民の危険を除去することが行政の懸案となつていた。折柄、本件土地の一部を既に取得し(移転登記は未了)、他の部分については所有者から埋立てと売却を委任されて右砂利穴の埋立工事に着手していた大村建材から、右工事費を所有者らだけでは負担し切れないことなどを理由として、値段を安くするので埋立後のA地を買収してもらいたい旨町当局に対して打診・申入れをしてきた。町当局は、これによつて右懸案を解決するとともに、公共用地の取得難にかんがみ将来の公共用地を確保しておくという思惑も手伝つて、当座の一応の目的としては町営グランド用地ということにして、必ずしも具体的かつ確定的な利用目的を決定しないまま、大村建材の右申入れに応ずることにし、昭和三八年三月一一日、町長守保がその職務の執行として大村建材との間で、A地を同社が埋め立て、これを町が坪当たり一万一五〇〇円で買い受ける旨の契約を締結した。ただ、当時の条例(乙第一〇号証)では契約金額一件一〇〇万円以上の不動産を購入するには議会の議決を経なければならないものと定められており(第三条)、この議決をまだ経ていなかつた関係上、右契約の締結に当たつては、買主名義を国立町としないで守保個人とし(名義は守保個人であるが、契約は国立町との間に成立している。)、かつ町議会の議決を経た時にこれが本契約として正式に成立するものとした(したがつて、右三月一一日の契約は、いわゆる仮契約と見ることができ、契約書(乙第一号証)の表題も「仮契約書」とされている。)。

2  ところが、A地の砂利穴が予想以上に深く埋立費用が余分にかかることやA地付近の土地が高速道路用地としてそのころ(同年三月下旬ころ)坪当たり一万八三六〇円で日本道路公団に買収されこれが公表されたことなどがあつて、これらを理由として、大村建材から単価を坪当たり一万五〇〇〇円ほどに増額してほしい旨の申入れがあり、かつ相前後して同社から隣接のB地をも合わせて売却してもよい旨表明してきた。守保は当初右増額要請を拒絶していたが、B地を含めた一括買収は町として歓迎すべきことであり、右道路公団の買収価額と対比して右増額が必ずしも不当なものでなく、これに応じて前記懸案を解決する方が、これを拒絶して結局A、B両地とも円滑に買収することができず事態が複雑化するよりも町にとつて得策であると判断して、大村建材の右申入れに応ずることとし、同年七月ころ、改めてA、B両地つまり本件土地全部を大村建材に埋め立てさせ、全体を坪当たり一万四四五五円で町が買い受ける旨合意した。

守保は、次の3で述べる町議会に先立ち、あらかじめ議員の了解を得ておくため、右合意と相前後する同年七月二七日町議会議員の全員協議会を開催して、本件土地を坪一万四〇〇〇円ないし一万五〇〇〇円ほどで買収したい旨説明し、席上一部議員から反対意見が出たものの、協議の途中で現地を視察した後においては、既に埋立工事が相当進捗していたことなどもあつて、本件土地が予想以上に良い土地であるとの印象を抱いた議員が多く、九〇〇〇坪余のまとまつた土地を坪当り一万四〇〇〇円ないし一万五〇〇〇円で買収することについて価格面での異議は出なくなつたものであり、前記日本道路公団の買収事例や右現地視察後の議員らの心証等にかんがみ、坪一万四四五五円という価額は買収価格として決して高いものではなかつた(むしろ、安く買つたものといえる。)。

3  次いで、守保は、同年一〇月一日前記条例の規定に基づき、本件土地の買収につき町議会の議決を求めるため、公共用地取得のため買収契約を締結する旨の議案第八六号、公共用地埋立工事請負契約を締結する旨の議案第八七号並びに公共用地の取得及び埋立工事施行のため予算外義務負担をする旨の議案第八八号を町議会に提出した。土地それ自体を取得する議案第八六号とその前に埋立てをさせる議案第八七号とに分けたのは、主として提案理由を説明する便宜のためであつて、ひつきよう埋立完了後の本件土地を右坪単価で買収するに帰する内容であることは、全議員が熟知していたものである。また、議案第八八号は、公共用地の取得及び埋立工事のため(目的)、土地買収契約及び公共用地埋立請負契約の締結をする(内容)につき、一億四八〇〇万円以内(限度)で予算外義務負担をするというものであり、契約締結の時期は昭和三八年度、支払の時期は昭和三九年度、引当財源は一般歳入となつていた。そして、これら議案は賛成多数をもつて原案どおり即日議決されたので、これにより、国立町と大村建材との間に、前記変更に係る内容の本件買収契約が正式に成立したものである。

4  昭和三八年当時の国立町の財政は、本件土地買収代金支払のためには金融機関から資金を借り入れざるを得ない状況にあつたので、町長の守保は、その資金として、前示のように同年三月一一日(前記仮契約の日)から一二月二七日までの間前後九回にわたり、町の指定金融機関である中央信金から総額一億二三八四万五〇〇〇円を利息日歩二銭一厘ないし二銭三厘の約定で借り入れ、これをすべてその都度大村建材に支払つた。これらの借入れ及び支払のうち第七ないし第九回の三回分(計一三八四万五〇〇〇円)は、その実態どおり国立町名義で実行されたのに対し、第一ないし第六回の六回分(計一億一〇〇〇万円)はいまだ前記町議会の議決がなく守保個人名義で大村建材と契約していたことに対応して、同様に守保個人名義で実行されたが、これが名義のみにすぎないことは、右大村建材との契約の場合と全く同一であつて、この個人名義の借入金合計一億一〇〇〇万円は、前記議決後の同年一一月一五日付けで町名義の借入金に切り替えられ、かつ右借入金による大村建材への従前の支払も当然のことながら町がしたものとして取り扱われることになつた。そして、都合九回の各借入金に対する借入時から昭和四二年三月一三日までの利息合計三二六三万九七一九円は、すべて町が支払つた。以上一連の処理については、助役の控訴人今井、収入役の控訴人佐伯も町長守保の相談にあずかり、現実の支払は、控訴人佐伯が守保の命に従つて行つた。

5  ところが、当初の仮契約書(乙第一号証)には、国立町は大村建材が売買土地の譲渡を完了した時直ちに土地代金を同社に支払う旨の条項が入つていたけれども、右契約に際して当事者双方とも、これが売主側の先履行義務を格別に定めたものとは全然認識しておらず(右条項の文言のみをもつて売主の先履行義務を定めたものと断ずることは困難であり、また、そのように解すべき事情は本件の全証拠によつても認められない。)、むしろ、大村建材が埋立てをして整地を完了した部分から土地の授受をするとともに、その土地の移転登記や農地転用に必要な書類が集まつたところで町において逐次それに見合う一部代金を支払つていくという約束が仮契約書とは別に出来ており(したがつて、農地転用が許可され本登記も全部済んだ後で代金を支払う約定であつたという被控訴人らの主張は採用できない。)、それゆえ、この約束に従つて現実に町は、前示のように、造成工事が一部完了するごとにこれに相当する一部代金を支払つて一部土地の引渡しを受け、昭和三八年一二月二七日の代金完済時には本件土地全部の引渡しを受けていたものであり、更に、そのころまでに、ほとんどの土地につき、地目非農地の分については所有権移転の本登記を了し、地目がまだ農地の分については同じく仮登記を了しかつ農地転用に必要な書類を受けていたものである(翌昭和三九年三月二七日には、全部の土地につきこれらの受領が終わつていた。)。

6  ところが、昭和三九年に入ると、本件土地の買収を巡り、国立町民及び町議会において、町長守保の行動に対する批判、非難の声が起こり、同年九月三〇日には、被控訴人らから、本件買収契約は代金額の決定に違法があり、大村建材への支払も違法支出であるからその是正措置を求めるという監査請求が出され、これは、同年一一月二八日理由なしとしてしりぞけられたが、翌昭和四〇年一〇月には建設省から多摩川河川敷を町営グランド敷地として長期間無償で借り受けられることになつたので、町長守保は、昭和四一年三月三〇日、議会の議決を経て、町から国立町農業協同組合に対し、坪当たり二万三〇〇〇円・代金総額一億八一六四万三一九〇円で本件土地を売却した。

以上の事実を認めることができ、前掲証人の証言及び本人の供述中には、右と若干意味合い(いわゆるニユアンス)を異にするような部分が散見されるけれども、これらは右認定を左右するに足りず、他に右認定に反する証拠はない。

三  本案前の抗弁の当否

右認定の事実関係及び本件記録に現れた本件訴訟の経過によれば、被控訴人らが本件土地買収契約締結についての違法、代金支払についての違法を指摘して是正措置を求めた本件監査請求については、その代金調達の違法及びその是正措置をも合わせて対象としていると解し得ないことはない。したがつて、大村建材ヘの支払についてのみならず、本件利息金の支払についてもその違法を理由とする控訴人らに対する損害賠償請求につき、被控訴人らが監査請求を経ているといえないことはなく、この点に関する控訴人らの本案前の抗弁は、採用することができない。

四  第一請求について

そこで、前示一、二の事実関係に基づいてまず第一請求の当否につき判断するに、国立町議会の議決した予算外義務負担に係る前記議案第八八号においては本件買収代金の支払時期が昭和三九年度とされ、また昭和三八年度予算には右代金支払の件は計上されていなかつたのであるから、同年一二月二七日までにした前後九回にわたる大村建材への支払は、支払うべき時期より前にしたという点において違法であることは否めない。控訴人らは、予算外義務負担の議決があればその義務履行としての支払は予算に計上されることを要しないと主張するけれども、これは独自の見解であつて採用することができない。

しかしながら、大村建材への支払は、反対給付を受けないで売買代金の前払をしたのとは全く異なり、埋立整地の終わつた分から逐次土地の引渡しを受けるとともに、代金もこれに相当する分を一部ずつ支払つていつたのであるから、町においては、その都度各分割払に見合う土地の占有利益を取得し、その使用価値を現実に掌握したものであり、したがつて、右議案や予算からすれば支払うべき時期より前に支払つたことにはなるけれども、そのことによつては町に何らの損害も被らしめていないものというべきである。

もつとも、大村建材との間で同社の先履行義務が約定されていたのであればまた格別であるが、前記二5で認定したように、かかる約定はなく、かえつて埋立てが済み引渡しを受けた分から逐次代金を支払つていくという約定になつていたのであるから、前後九回にわたる大村建材への支払は契約どおりのことをしたまでのことである。そして、砂利穴地を埋め立てた上売り渡すという請負的要素も入つている以上、出来高払のごとき右代金支払の約定には、何ら不自然・不合理なところはない。したがつて、大村建材との約定の点で支払が早きにすぎたということにはなり得ない。

要するに、国立町には損害がないのであるから、控訴人らの第一請求は理由がない。

五  第二請求の当否について

次に、同じく前記一、二の事実関係に基づいて第二請求の当否につき判断する。

前記改正前の地方自治法によれば、本件借入当時地方公共団体が借入れをするには、一時借入金(第二二七条)か地方債発行(第二二六条)によるしか方法がなかつたところ、本件借入れは会計年度を超える長期資金に係るものであるから一時借入金によることができず、地方債の方も、本件土地買収の財源にするとはいうものの、本件土地の利用目的が具体的には定まつていなかつたのであるから、当時の地方財政法第五条第一項第五号の「公共施設又は公用施設の建設事業費」には含まれず、ひいては、地方債発行によることもまた不可能であつたものである。そうすると、本件借入れはしてはならなかつた違法な借入れであり、その借入れの中央信金との間の私法上の効力いかんにかかわらず、本件利息金の支払も町との関係においてはしてはならなかつた違法な支払であり、これによつて国立町は利息金と同額の損害を被つたもののごとくである。

しかしながら、本件借入れは、本件土地の買収資金のためであることを直接の目的としたものである以上、右買収と切り離して考えるべきでないことはもちろんであり、町が右借入れをすることによつて、これを本件土地買収代金の支払に充て、その結果本件土地を取得できたという点は、到底無視するわけにはいかない。すなわち、本件買収契約が町議会の議決を経て大村建材との間で有効に成立している以上、町は代金支払を法的に義務付けられていたものであり、当時の町財政は右支払のためには本件借入れに頼らざるを得ない状況にあつたのであるから、本件利息金の支払は必要やむを得ない支出であつたと考えられ、町の取得した本件土地が本件借入金と本件利息金を加えたものに見合う価値を有するのであれば、町には結局において損害がないことになる、というべきである。

右の見地に立つて検討するに、前記二2において検討したように本件買収契約における坪当たり一万四四五五円という単価は決して高くはなかつたと認められるから、本件借入金の元本はこれに見合う本件土地価格に転じ、本件土地を取得した町には、その借入れによる損害は生じていないことになる。次に、本件利息金について見るに、日歩二銭一厘(年利七分七厘弱)ないし二銭三厘(同八分四厘弱)というのは、当時の金融事情からして決して高いものではない(公知の事実ともいえるし、前記検討結果、前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして、妥当な金利であつたことが容易に認められる。)のみならず、東京都内の土地価格が年々上昇し(公知の事実といえる。)、本件土地については坪当たり一万四四五五円で取得できたのが三年後には同じく二万三〇〇〇円で売却できた(年平均一割九分七厘の値上がり)のであるから、本件利息金もまた本件土地の値上がりに吸収され、町は、その支払をすることによりこれに見合う(むしろこれを上回る)財産的ないし経済的価値を取得したといえるのであり、したがつて、現実には何らの損害も被つていないものというべきである。

被控訴人らは、右に関して、本件土地買収からその後の売却に至るまでの間に要した各種手続費用や町職員らの人件費等をも斟酌すべきである旨主張するが、買収とその後の売却に関する直接の手続費用については、その額が本件利息金ないし本件土地の右値上がりの金額と対比して微々たるものであることは前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして明らかであるから特に論ずるまでもないし、その余の財政的支出については、例えば町議会が本件土地買収に係る前示三議案を否決するなどした場合であつてもその支出自体は免れないし、その他一般の人件費が本件土地買収ないし本件借入れによつて特に増大するいわれはない(もとより、主張も証拠もない。)ので、被控訴人らの右主張は採用できない。

なお、差戻前の当審判決に対する上告審の破棄理由について考えるに、被控訴人らが上告審判決の内在的論理として主張するところからすれば、上告審判決は、本件利息金相当額の損害が町に生じていることを前提とした(これが被控訴人らの言う内在的論理である。)上で、地方債の利息を控除すべき旨判示したものであり、したがつて、差戻後の当審において地方債発行を不可能と判断した以上控除すべきものがないから、結論としては右利息金相当額の損害が町に生じているとするほかない、ということになる。しかしながら、上告審の破棄理由は、地方債発行が可能であると仮定した場合における損害についての判示にとどまり、起債そのものが不可能である場合における損害については何ら判示していない(起債の可能性が全くないのに、起債した場合における利息との差額を損害とするという考え方は、およそ損害論として採り得ない。)のであるから、以上に説示した当裁判所の判断は、上告審の破棄理由に何ら抵触するものではない。上告審判決は、本件土地が値上がりしていると否とにかかわらず、また値上がりしている場合には利息相当額の損害はないと解すると否とにかかわらず、およそ地方債発行が可能である限りは、その利息との差額が損害であると判示したものであり、同判決が売却差益との損益相殺に係る上告理由第四点につき何ら言及するところがなかつたのも、その論旨の理由の有無を論じてみたところで破棄理由には全く関係がないからである、と理解すべきである。要するに、上告審判決には、被控訴人らの主張にあるような内在的論理があるわけではないから、右主張は採用の限りでない。

以上のように、第二請求についても、国立町に損害が生じたとは認められないので、被控訴人らの請求は理由がない。

六  結び

よつて、被控訴人らの請求はいずれも棄却すべきであり、その第二請求(第一請求は選択的に併合されている。)を認容した原判決は不当であるから、行政事件訴訟法第七条並びに民事訴訟法第三八六条、第九六条及び第九三条に従い、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 裁判官 伊藤剛)

別表(一)

日付    借入金額(円)返済金額(円) 残高(円)

昭和38年10月 1日  110,130,000        110,130,000

昭和38年10月25日  10,000,000        120,130,000

昭和38年11月 5日           130,000

同日         5,000,000        125,000,000

昭和38年11月 6日   3,045,000        128,045,000

昭和38年12月27日    800,000        128,845,000

昭和39年 3月31日   5,000,000        133,845,000

昭和39年 6月30日   5,000,000        138,845,000

昭和39年10月 8日          1,561,140 137,283,860

昭和39年12月24日   2,000,000        139,283,860

昭和39年12月28日           111,979 139,171,881

昭和40年 1月22日            9,850 139,162,031

昭和40年11月25日           80,469 139,081,562

昭和41年 5月18日         12,000,000 127,081,562

昭和41年 6月 6日         80,000,000  47,081,562

昭和42年 3月13日         47,081,562      0

別表(二)

期間       日数   元本 年五分の損害金

昭和38年10月 2日~38年10月25日 24 110,130,000   362,071

昭和38年10月26日~38年11月 5日 11 120,130,000   181,017

38年11月 6日  1 125,000,000   17,123

昭和38年11月 7日~38年12月27日 51 128,045,000   894,560

昭和38年12月28日~39年 3月31日 94 128,845,000  1,659,099

昭和39年 4月 1日~39年 6月30日 91 133,845,000  1,668,478

昭和39年 7月 1日~39年10月 8日 100 138,845,000  1,901,986

昭和39年10月 9日~39年12月24日 77 137,283,860  1,448,062

昭和39年12月25日~39年12月28日  4 139,283,860   76,319

昭和39年12月29日~40年 1月22日 25 139,171,881   476,616

昭和40年 1月23日~40年11月25日 307 139,162,031  5,852,430

昭和40年11月26日~41年 5月18日 174 139,081,562  3,315,094

昭和41年 5月19日~41年 6月 6日 19 127,081,562   330,760

昭和41年 6月 7日~42年 3月13日 280  47,081,562  1,805,868

計  19,989,483

準備書面(昭和六〇年八月二七日)

民事訴訟法四〇七条二項は「差戻又は移送を受けた裁判所は………上告裁判所が破毀の理由と為したる事実上及法律上の判断に覇束せらる」と定めているので、本件破棄の理由となつた上告理由第三点についての「………国立町が地方債を起こし、資金を調達したとしても利息等の費用の負担を余儀なくされるのであるから、本件利息額の金額を国立町が受けた損害と解すべきではなく、地方債の発行に伴い国立町が通常負担するであろう利息等の費用に相当する額は、損害にあたらないものと解するのが相当である」との判断は覇束されること明らかであるが、その他の排斥された上告理由の諸点については、その判断は直接破棄の理由となつたものではなく、いわば判決の傍論と考えられるから拘束力は及ばないと解するのが相当である。

よつて、右排斥された上告理由を含め第一審被告の主張を以下のとおり整理して陳述する。

上告理由第一点について

本訴第二請求は、地方自治法二四二条の監査請求を経ない事項について判決した違法があり、却下せらるべきである。

本件監査請求は、国立町と大村建材株式会社との本件土地売買契約は、代金額の決定に違法があり、又同社に対する右代金の支払いは、国立町会計規則六一条七号の手続にも違反する違法支出であるから、その是正措置を求めるというのであるが、これに対し本訴第二請求は、国立町の多摩中央信用金庫よりの本件借入れは、地方自治法に定める地方債又は一時借入金のいずれの方法にもあたらない違法な措置であるから、右違法借入れに基づく約定利息の支払いも違法支出であるというにある。右両者はそれぞれの債務負担若しくは支出の原因となる契約につき相手方及び内容を異にするばかりか、前者は売買契約の締結が違法であることを前提とするのに対し、後者は売買契約の締結が違法であるか否かを問題とするのではなく(かえつて売買契約及び代金の支出が違法でないことを前提とするとさえ考えられる)、単にその資金の調達方法が違法であることを主張するにすぎないのであるから、後者は前者の対象とする売買契約の違法とは無関係の事実であり、又前者の請求した措置とも関連がないのである。結局右両者は対象たる行為の次元を異にし、基本的事実がそれぞれ相違するのである。

ところで、上告裁判所は上告理由第一点について「本件監査請求についてはその代金調達の違法及びその是正措置をも合わせて対象としているとも解しえないでもない」旨判断するが、すでに述べたとおり、右代金調達方法の違法は本件監査請求にかかる事実や措置とは無関係のものであるから、右判断は明らかに誤りである。

甲第二号証によれば、昭和四〇年三月一一日、別の住民らより本件借入れの違法を理由として元利金の支払いの差止措置を求める監査請求がなされている。甲第一号証の監査請求がすでに行われたにもかかわらず、あえて甲第二号証の監査請求を行つたのは監査の対象とする事実が別個であることを認識していたからにほかならないのである。住民訴訟の前提として経由した住民監査請求の対象事項をあまり広く解すると監査委員が現実に監査を行わなかつた事実(本件監査においては監査委員は本件借入れの違法、利息支払いの違法については監査を行つていない)まで広く包含されることになり、住民訴訟について監査前置主義を定めた法律の趣旨に反する結果になるのである。

上告理由第二点について

多摩中央信用金庫よりの本件借入れは地方自治法に定める地方債又は一時借入金のいずれにもあたらない違法な借入れであるとしても、同金庫との関係においては、本件金銭消費貸借及び本件利息の約定は無効な契約とはいえないのである。たしかに、本件借入れは地方自治法に定める地方債又は一時借入金のいずれの方法にもよらないものであるが、同金庫は国立町の本件借入れが右地方自治法所定の手続を経たか否かは関知しないところであり、又同金庫は約定の貸付金全額を町に交付し、町は右借入金をもつて本件土地代金の支払いに当て、同土地を取得したのであるから、同金庫との関係においては、右金銭消費貸借及び利息の約定は信義則上も有効な契約と解するほかはないのである。従つて、右金銭消費貸借契約に基づく元金及び約定利息の支払いは国立町の義務負担に属するものであり、収入役佐伯としては、その支出命令に従つて支出せざるを得ないのであつて、何等違法はないのである。

なお、国立町においては昭和三九年度から昭和四一年度まで毎年度の一般会計予算書に本件土地買収のための借入金に対する当該年度の利息を歳出として計上し、同町議会の議決を経ていることが認められるから、本件利息の支払いが右議決された予算の執行としてなされた以上手続的にも何等違法はないのである。

又仮に、本件金銭消費貸借契約が無効であるとしても、町は同金庫に対し受取つた元金全額を償還する義務があることは勿論、本件借入れは町長がその職務上行つた措置であるから、国立町は国家賠償法第一条に基づき、同金庫に対し本件約定利息同額の得べかりし利益を同金庫の損害として賠償する義務がある(単に民法所定年五分の割合による遅延損害金ではない)から、結局この場合においても収入役佐伯は右利息同額の支出命令を履行するほかはなく、右支出には何等違法はないのである。

上告理由第三点について

本件土地の買収については予算外義務負担行為若しくは債務負担行為として町議会の議決を経ており、同議決に基づいて本件土地売買契約が締結された以上、町長としてはその代金支払いに必要な資金を調達しなければならない義務があつた。ところが、当時国立町の財政は一般歳入をもつて右代金の支払いに当てる余裕はなく、会計年度を超える長期資金の借入れをするほかはなかつたので、町の指定金融機関である多摩中央信用金庫より本件借入れを行つたのであるが、国立町が地方債を起こし、これにより資金を調達したとしても利息等の費用は余儀ないものであつたから、本件利息の全額を国立町が受けた損害とすることはできないのである。ところで、地方債を起こした場合(本件において起債が許可され得るものであることは昭和五九年七月一三日付及び昭和六〇年一月三一日付第一審被告準備書面で詳述したところである)、本件借入利息程度の支出は、地方債の通常の金利負担としてもやむを得ないものであるから、何等国立町に損害を与えるものでもないのである。

又本件土地売買代金の支払いは契約上の債務であるから、これを履行しない場合は当然強制執行を受けるか或は契約を解除されることになるばかりか、いずれも多大な損害賠償の請求を受けることになる。そしてこの場合の損害賠償額は必ずしも予測できないところがあり、例えば遅延損害金に関してはこれにつき当初の約定が存在しないとしても、本件の場合売主大村は資金繰りしながら本件埋立工事をするなど早急に売買代金相当の金員を確保する必要があると認められ、通常銀行借入利息と同率程度の損害金はやむを得ないと考えられ、しかも売買代金の履行が完了しない限り遅延損害金の支払いが永久に続き、総額では莫大な額に達する蓋然性が多大である。又本件売買契約解除による損害に関しても売主大村は各地主との基本の契約関係もあり、特別の損害が加重される蓋然性が多大である。従つて国立町としては仮に起債が不許可であつても、本件土地売買代金の支払いが不可避なものである以上前記債務不履行等による損害金の支払いを回避するため銀行等金融機関より資金を借入れ調達して早急に代金の支払いを完了し、債務不履行の状態を回避乃至解消する必要がある。よつて地方債以外による銀行借入れの場合においても本件借入利息程度の支払いは前記債務不履行による損害賠償を回避するため余儀のない支出と認められるから、右利息の支払いは町に損害を与えるものとはいえないのである。

上告理由第四点について

国立町は多摩中央信用金庫より本件借入金全額を受取つて本件土地代金の支払いを完了し、同土地の引渡しを受けてこれを取得したのであるから、結果的に町は右借入金及び約定利息と同等以上の対価を得たことになる(民法五七五条二項参照)から町には何等損害は生じていないのである。本件土地取得価格は坪当り金一四、四五五円であるが、右価格は時価に比しむしろ低廉であつたのである。昭和三八年三月下旬ごろ、付近の土地が高速道路用地として坪当り金一八、三六〇円で日本道路公団に買収されたこと、昭和四一年三月、本件土地は坪当り金二三、〇〇〇円で転売されたことは証拠上明らかであるから、右事実及びその他の証拠に照らし、本件土地取得価格が時価より低額であつたことが認められるのである。

なお、住民訴訟においては地方公共団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為により地方公共団体に損害を与えたことが要件事実をなすものであるから、右事実に関する主張、立証責任は原告にあるというべきである。

以上上告理由第三点及び第四点に関して主張したとおり、仮に本件借入れ及び利息の支払いが違法であるとしても、国立町に何等損害を与えていないから本訴請求は棄却さるべきである。

上告理由第五点について

多摩中央信用金庫に対する本件約定利息乃至利息同額の支払いは違法支出でないことは本準備書面中上告理由第二点に関しすでに述べたところであるが、仮に右利息乃至利息同額の支払いが違法支出であるとしても、右支出は本件土地取得のため同金庫より町が現実に受取つた金員に対する消費貸借契約の履行としてなされたものであるから、右元金の借入れが違法であるとしても、信義則上国立町において元利金同額の支払義務があると考えるのは無理もないところであり、しかも右利息の支払いは議会の議決を経た予算の執行としてなされたものであるから右支出につき第一審被告らには過失は存しないというべきである。

上告理由第六点について

昭和三八年法律第九九号地方自治法の一部を改正する法律は昭和三九年四月一日施行されたものであるが、同法律附則一二条の規定によれば「この法律施行前の事実に基づく地方公共団体の職員の賠償責任については新法二四三条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による」とされている。ところで、本件においてこの法律施行前の事実とは収入役についていえば、職務上町長の命により本件利息を支出した事実をいうのであり、その原因となった多摩中央信用金庫との本件金銭消費貸借及び利息支払の約定は含まれないのである。何故ならば、右金銭消費貸借契約は収入役の職務権限に属しないものであるから、収入役に関する事実ではないのである。収入役は会計事務はつかさどるが、同事務には予算、契約は含まれず、又昭和三八年改正の地方自治法一七〇条、二三二条の四に定める支出負担の確認(改正前の法律には規定はない)とは、支出の段階での審査をいうのであつて、支出負担行為の事前審査は職務の性質上含まれないのである(有斐閣法律学全集八巻 俵静夫著地方自治法一九九頁及び二〇〇頁)。よつて、昭和三九年四月一日以降の本件利息の支払いに関しては、収入役につき右改正後の地方自治法二四三条の二の規定が適用されるのである。

町長、助役、収入役はいずれも同法二四三条の二第一項後段所定の各行為をする権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助する職員に該当するから、本件借入れ及び利息の支払いが違法であるとしても、収入役らは同条により故意又は重大な過失による場合にのみ責任を負わされるのであり、又その賠償については町長は監査委員に対し賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命ずることになつているから、右手続を経由しない以上、損害賠償請求権は具体的に発生していない(同条三項、九項)。本件においては収入役であつた佐伯に対し右責任要件である重大な過失の主張がなされていないばかりか、右佐伯に対し前記監査委員による賠償額等の決定及び町長の賠償命令を経ていないから本件訴は訴訟要件を欠き却下せらるべきである(同条六項)。

上告理由第七点について

本件利息の支払いが違法支出でないことはすでに述べたとおりであるが、仮に右支払いが違法支出であるとしても、収入役であつた佐伯に対して本件利息の支出を命じたのは町長であつた亡田島守保であり、助役であつた今井ではない。仮に助役今井が町長の収入役に対する右支出命令を知りながら町長及び収入役に対し何等注意を与えなかつたからといつて、それだけで右支出につき不法行為者として町長及び収入役と連帯して賠償責任を負担するいわれはない。甲第二号証の監査請求においては助役今井の行為は対象とされていないのであるが、このことは住民らも当時助役今井については本件利息の違法支出の責任者とは考えていなかつたからなのである。本件利息の支出につき助役今井に過失がなかつたことは、右のほか、本準備書面中上告理由第五点に関する主張を全部引用主張する。

本訴第一請求について

本件土地代金は当初予算措置をとらずに支出されたものであるが、国立町は右代金を支払うことにより同時に対価として本件土地を取得し、引渡しを受けたのであるから、同町には何等損害はない。第一審原告は右代金支出につき予算が補正されるまでの間民事法定利率年五分の割合による損害金を請求するが、右請求は何ら法的根拠のないもので、主張自体失当である。金銭債務不履行の場合の民事法定利率による損害賠償額(民法四一九条)とは事柄が全く異なるのである。

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